- メーカーの挑戦−集客向上−
-
共に大阪「キタ」に本拠地を構える、阪急百貨店と阪神百貨店が経営統合し、2007年10月1日に持ち株会社「エイチ・ツー・オー リテイリング」が誕生した。大丸と新規参入の三越を加えた「2011年百貨店戦争」を控え、この統合は、どのような影響を及ぼすのか。
道を挟んで、左が阪急百貨店、右が阪神百貨店。2007年10月1日、両社が経営統合し、持ち株会社「エイチ・ツー・オー リテイリング」が誕生した。
鉄道事業と分離した両百貨店事業を統合、新企業を設立
長年、ライバル関係にあった両百貨店が経営統合を果たすことになったのは、MACアセットマネジメント(通称:村上ファンド)による株式の大量保有が明らかとなった阪神電鉄が、2006年に阪急ホールディングスのTOBにより経営統合されたことに端を発する。
このとき誕生した阪急阪神ホールディングスには、阪急三番街やディアモール大阪、ハービスエントといった商業施設のほか、沿線主要駅にある野田阪神ウイステ、エビスタ西宮といったショッピングセンター、ブックファーストやサウンドファースト、成城石井といった「駅ナカショップ」、阪急オアシスや阪急ニッショーストアといったスーパーマーケットなども含まれている。
一方で、百貨店事業に関しては、阪急・阪神ともに早くから鉄道事業との分離化を果たし、独立企業として経営を続けてきた。そこで、阪急阪神ホールディングスとは別組織で百貨店業に特化した経営をする方が効率的との判断から、エイチ・ツー・オー リテイリング(以下、H2Oリテイリング)が設立された。
組織としては、経営陣の直下に、経営企画室やシステム企画室、広報室などがあり、事業部は百貨店事業・スーパーマーケット事業、PM事業、関連事業の4つ。その百貨店事業の中に、阪急百貨店と阪神百貨店とが並列する形となる。
ミナミ、難波、京都周辺など相次いで活性化
少子化や業界再編などにより、百貨店がおかれている環境は、年々厳しさを増していくことは間違いない。ことに、阪急・阪神・大丸という既存百貨店の増床および改装に加え、2011年に三越の新規出店が決まっている大阪・梅田周辺では、生き残りをかけた競争が行われることだろう。
H2Oリテイリングの誕生は、その大阪「キタ」における地域1番店と2番店の統合を意味している。すなわち、大丸と三越のように、地盤の異なる百貨店が、営業エリアの拡大を見据えて提携するのとは異なり、ドミナントエリアでの圧倒的な強さを発揮することに主眼が置かれている。
実際、阪急百貨店の改装工事が2008年(予定)に完了すれば、その総床面積は約8万4000平方メートル。阪神百貨店の5万2000平方メートルと合わせると15万平方メートルに迫るメガ・デパートが誕生する計算になり、キタの「2011年戦争」の大きな目玉となることは疑いようもない。
現在の関西全体の流通業界に目を向けてみると、まず、大阪・ミナミの活況が先行している。そごう復活で盛り上がる心斎橋には、老舗大丸も健在のうえ、新しいブランドショップが続々と登場して消費者を引き付けている。
難波周辺も、2006年9月のマルイ進出や、2007年4月のなんばパークス第2期オープンで集客力が向上しており、老舗百貨店の高島屋も、約半世紀ぶりの大規模改装に取り掛かるなど意気盛んだ。
また京都では、JR伊勢丹が2006年度の売上で1998年度比150%をはじき出すという予想以上の健闘ぶり。高島屋・大丸などが軒を連ねる「四条通り」の不振を尻目に、観光客をも取り込んだ。今夏には駅ビルにビッグカメラが出店し、近鉄百貨店跡にはヨドバシカメラが進出を計画するなど、駅周辺の再開発は、まだまだ続きそうだ。
それぞれの個性を残したまま、地域一のランドマークを目指す
こうした動きの中で、大阪キタが関西の中心地として認知されるためには、H2Oリテイリングが擁する二つの百貨店が、それぞれの個性に磨きをかけ、他を圧倒する地域一番店となることが肝心であろう。
経営統合に先がけ、今年4月から百貨店カード(阪急:ペルソナカード、阪神:エメラルドカード)の相互開放を行なったところ、各約70万人のカード会員のうち、約1割が統合相手のカードを利用するという、好調なすべり出しをみせている。また、多くの消費者が、ひいきの百貨店にはないブランドを求めて、他方へと「買い回り」をしている状況が浮き彫りになってきた。
この現象をうまく活用できれば、北は茶屋町から西は西梅田、さらに福島までをも網羅する、阪急阪神東宝グループの統合力をいかんなく発揮することができそうだ。例えば、阪急阪神ホールディングスが各事業部門との連携により、この10月1日に立ち上げた情報提供サイト「うめだポータル」では、グループ18社、32の商業・サービス施設の最新情報を発信している。
現在人気を集めているポータルサイトの多くが、「グルメ」「旅行」「美容」といった目的別に編成されているのに対し、同サイトは梅田という地域にこだわることで、「目的地は梅田周辺と決まっているが、何をするか考えたい」という層に訴求することを狙っている。
「モノだけでなく、コトも売る時間消費型の百貨店を目指したい」(H2Oリテイリング広報室)という姿勢が反映されたコンテンツといえよう。
数年前から、食品や医薬・化粧品、PCなどのメーカーの間で、通信販売に参入する企業が増加している。流通の川上に位置付けられるメーカーにおいても、エンドユーザーである一般生活者との関係づくりが抜き差しならない課題として認識されるようになってきたといえよう。本特集では、メーカーによる通販参入の最新事情を追った。
経営資源の活用と顧客視点の事業構築が成功のカギを握る
食品や医薬・化粧品、PCメーカーなどが通信販売に参入する背景のひとつに、CGM(Consumer GeneratedMedia)の台頭など、インターネットの普及がもたらした「情報流」の変化がある。一般生活者の力が強まり、顧客主導型経営へと企業の目が向く中、メーカーにおいてもエンドユーザーへのアプローチが課題として認識されるようになってきたのではないだろうか。
2000年代のメーカー通販参入は自社商品の新販路開拓がメイン
(株)工業市場研究所が1993年にまとめた報告書『通信販売 ――主要企業の事業実態』によると、1982年の大店法による出店規制により、無店舗販売(通信販売)、特にカタログ販売を積極的に展開する企業が増加し、1980年代後半からは、店舗小売業にとどまらず、メーカー、商社、輸送業者などありとあらゆる業種・業態からの参入が活発化した。
エポックメイキングな事例としては、1984年に(株)ヤクルト本社、三菱商事(株)などが出資した(株)リプソンの設立がある。しかしリプソンが1988年夏に事業撤退したように、その多くは失敗に終わった。失敗の要因は、当時、店舗業態を上回る伸び率を示していた通信販売への参入そのものが目的化し、自社のブランドイメージとかけ離れた商品を仕入れ、通販展開を図ったことにある。
その後、2000年代に入って、メーカーの通販への参入が再び活発化。ここ数年の参入企業の特徴としては、既存商品にかかわる技術や素材を活かして自ら開発した商品や、既存商品のカスタマイズ、あるいは既存商品の周辺商品など、自社の最大の経営資源である商品開発力を活かして通信販売を行っているケースが多いことが挙げられる。
メーカーによる通販への参入形態には、B to B、B toB to C、B to Cの3つがあるが、本特集では、B to Cにフォーカスして4社を取材すると同時に、専門家へのインタビューを行った。
“直販”によりエンドユーザーとの接点拡大に寄与
メーカーは、そもそも流通の川上に位置付けられていることから、生活者との接点が限られている。しかし、市場の成熟、情報化の進展に伴い、顧客主導型のマーケティングの必要性が叫ばれる中、メーカーにおいてもエンドユーザーとのコミュニケーションが不可欠となってきた。各メーカーでは、市場調査の実施はもちろんのこと、商品にかかわる苦情や問い合わせの受け付け、あるいは購入後のカスタマーサービスを提供するコールセンターを開設するなど、生活者情報を収集し、その活用に努めてきた。
特に最近では、インターネットの進展がメーカーと生活者とのダイレクトなやりとりを容易にしており、コミュニティサイト運営やメールマガジン発行を通して、エンドユーザーとのコミュニケーションを活発化させている企業が増加している。
インターネットの進展が、生活者の購買行動を大きく変容させたと言われる中、メーカーにとってネット上でのエンドユーザーとのコミュニケーションはますます重要性を増している。こうしたコミュニケーションの活性化への流れは、情報の流れのみならず、ビジネスそのものの流れをも変えつつある。メーカーによる通販参入がその一例だ。
新客獲得・顧客維持のプロセスが築きやすい商品を販売
メーカー各社における通販参入の意義は、メーカーにとって最大の経営資源である技術や商品開発力を活かすと同時に、中間流通チャネルを経由せずにエンドユーザーと直接取り引きできるため、生産量・在庫をコントロールしやすく、納期の短縮も可能になる点がある。また、生活者とのダイレクトなコミュニケーションによりエンドユーザーの情報を収集し、商品やサービスに反映することもできる。
では、今回取材した企業について、まずは商品を軸に見てみよう。
商品開発力を強みにしているのが、サントリー(株)と新日本製薬(株)。サントリーは自社の素材探索力と商品開発力で、独自にサプリメントを商品化。2000年に健康食品事業部を立ち上げ、通信販売を本格展開した。新日本製薬は、上海から原料の茶葉を輸入して自社でダイエット茶を製造販売することからスタートし、現在は健康食品の品揃えを拡大している。
一方、専用のWebサイトを構築し、カスタマイズ性の高い商品の受注生産方式で通販を展開しているのが、桐平工業(株)と日本ヒューレット・パッカード(株)だ。ボールペン、シャープペンをOEM生産してきた桐平工業は、こだわりのオリジナル商品を販売するECサイト「ペン工房キリタ」を開設し、名入れや装飾、ギフト用のメッセージカードの同封などにより、個々のお客様の要望に応えている。日本ヒューレット・パッカードは、ECサイト「HP Directplus」に個人・法人の別にそれぞれコンテンツを用意。工場を東京近郊に擁し、短納期を実現している。
次に、各企業の顧客へのアプローチ方法を見てみよう。サントリーは、約30アイテムの健康食品について、商品別に、主にテレビ、新聞、折込チラシなどのマス媒体を積極活用して新客獲得に注力している。初回購入後1年で、ある程度リピート客が選別されるという。黒字化したのは3年目のことだ。
新日本製薬は、テレビのインフォマーシャル番組が広告予算の70〜80%を占める。これに加え、当初から本社のある福岡を中心に積極的に出稿していたフリーペーパーで顧客を開拓。電話による注文時に定期コースをお勧めするなどして、リピーター化を推進している。
桐平工業はキーワード連動型広告やSEO対策などで興味のありそうな見込客をWebサイトへ誘導。注文を受けた後はeメールを定期的に送信。高級文房具という単一カテゴリーにもかかわらず、1割のリピート率を獲得している。
日本ヒューレット・パッカードは、オンライン販売の「HP Directplus」を個人・法人向けに運営。ターゲット顧客をセグメントし、サイトへの集客を促進すると同時に紙DM、eDMを駆使したアプローチを展開している。
モノではなく顧客視点でアプローチ方法を考えよ
今回、インタビューに登場いただいた(株)D&Iパートナーズ代表取締役の大串浩章氏によると、メーカー通販では顧客へのアプローチ方法が既存ビジネスと異なることへの理解が不可欠。その際に大切なのは、モノではなく顧客ありきの視点だと言う。
現状、通販はこれまでの対卸(流通)ビジネスとは違う対個人のビジネスであることから、広告予算の設定やコミュニケーション方法などでつまずく企業も多い。
例えば、従来のイメージ広告とは異なる広告の役割やトーン&マナーへの理解。広告=販売チャネルであるため、単なる商品認知にとどまらず、店頭の接客で求められるような商品説明や、説得して購入を後押しする広告表現が求められる。
また、取引の対象が異なるため、取引の規模やルールも異なる。受注・配送・代金回収といったフルフィルメント体制の整備をはじめ、新しいルールを策定し、基盤を固めなければならない。
前述の通り、メーカーとしてダイレクトに顧客にかかわることにより、顧客に関するさまざまな情報を収集できるので、それを商品開発やプロモーションはもちろん、リテールサポートやカスタマーサービスに反映すれば、顧客主導型のマーケティング、ひいては経営の推進につなげることができる。通販でダイレクトに顧客とやりとりすることで、通販そのものもさることながら、既存ビジネスも含む企業全体として顧客主導型にシフトするきっかけにもなるのだ。