まずつよく印象づけられることは、日本でいう「情意」(態度、性格)考課の拒否である。
いうまでもなくこれは主観的な評価になりやすく、労働者の企業への人格的従属を招きかねないからだ。
しかし解説を読むと、この主張は性差別克服という問題意識の反映でもあることがわかる。
すなわち、たとえばイニシアティヴ、創造性、積極性などは伝統的に男性の特徴とみなされてきたので、それらを評価要素に加えるとどうしても女性よりは男性を高く評価する偏向が生まれるというのである。
一見客観的な「出勤と時間厳守」が忌避されているのも、家事を担っている女性は男性よりもこの要請を満たしにくいという理由による。
また、どちらかといえば潜在能力の評価よりも顕在能力の評価が選好されている。
一般的には業績評価のほうがより直接的に労働者競争を刺激するけれども、職務範囲が明瞭な上、出来高給に対するつよい組合規制の実績をもつイギリス労働界では、業績評価のほうがより非人格的であり、経営の専制をコントロールしやすいと考えられているように思われる。
「適応性とフレキシビリティ」をB欄に加えるなどは、いかにも欧米的である。
職場での働き方と組合主義の伝統という条件を異にする私たちの国では、さしあたりなによりも必要なことは多能化とフレキシビリティの平等なルール化であって、すでに述べたように業績評価の重視はむしろ警戒すべきであろう。
けれども、日本でも諸概念のほとんどすべてが登場する情意考課の役割の極小化は、やはりもっとも重要な課題である。
柔軟で弾力的な働き方の要請がともすれば惰力として生み出す〈生活態度としての能力〉の要請は、端的に言って禁じられなければならない。
サラリーマンとその組合は、個人生活の必要からあるときには残業や休日出勤を拒む、妻の就業権や「男の育児権」を大切にした働き方にこだわる、会社の施策に批判的な組合活動や社会運動にかかわるーそんな生活態度を、仕事にかかわる潜在能力として査定させてはならない。
人権と「個人尊重」、すべての生活領域にわたる男女協同の名において、「会社人間」を造型する日本的能力主義のモメンタム(惰力)は、人事考課制の内容への介入を通じて絶たれるべきなのだ。
労働条件に関するとめどない〈個人処遇化〉を連帯的に規制するあらゆる営みは、人事考課制に対する労働者のおよそ以上のような介入をもってはじまる。
そして経営者にとっても、そうした介入に応じることは、「ストレスによる管理」とも評される日本的経営を世界に通用する労働システムとさせる上で不可避の手続きのはずである。
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